亡き父が遺した養殖を継いで

信州サーモン養殖師 郷津 実

郷津実

Q. どんなお仕事をされていますか?

 魚の養殖をしています。育てるだけでなく、販売・営業まで自分でおこなっています。主力は地元信州のブランドにもなっている「信州サーモン」です。おかげさまで取引先からも好評いただいています。「魚」という生き物を相手にした仕事なので、暑い日も寒い日も関係なく毎日朝夕2回の餌やりをしなければいけないなど、休みなしですね。

Q. なぜこのお仕事を選んだのですか?

 もともとは乗り物が好きで運送業を希望していましたが、残念ながら縁がなく、学生時代にアルバイトをしていた焼肉屋に勤めていました。しかしそのお店が東京に進出しようかというときに、養殖をしていた父が亡くなったのです。父が続けてきた養殖をどうするかという話になり、「自分しかいない」と思い後を継いで今に至ります。
 何の修行も積まず、未経験の状態でこの世界に入ったため、最初は手探りで苦労をしました。そんな中、「マス会」という養殖業の組合のようなものに入り、業界の先輩たちとつながれたのは大きかったです。そこで養殖についてたくさん学ぶことができました。
 とはいえ当時は本当に苦労が絶えず、利益も出せなくて父の遺産でなんとか食いつなぐ日々が続いていました。「このままではいけない」と思い、たどり着いたのが信州サーモンです。信州サーモンは稚魚を仕入れてから出荷まで3年はかかる魚です。最初のころはほぼ利益なしで、少ない数から始めました。それがたくさんのご縁にめぐまれて地元のホテルなどに卸せるようになり、当初は譲ってもらっていた稚魚もちゃんと買えるようになりました。今では8000匹ほど稚魚を仕入れて育てています。
今後は自分の加工場をもって、取り扱える魚を増やしていきたいと思っています。

信州サーモン

Q.仕事をするうえで大切にしていることは?

-命を相手にした徹底した管理

魚の管理は常に注意しています。餌やり一つをとっても、魚が痩せないように調整をしたりしています。川魚の体はぬめぬめしているのをご存じですか?あのぬめりは栄養で決まります。栄養がある魚はぬめりで体が傷つかないように守れています。逆にぬめりがないと栄養が十分ではなく、あまりおいしくないです。ただ餌をやるだけではなく、一匹一匹の状態を確認しながら品質を維持できるように細かく管理をしています。
 相手は魚、生き物です。ひとつ間違えればすべての魚が死んでしまうこともある。生き物相手だからこその怖さがあることを常に心において徹底した管理を心がけています。

-後継者不足解消に向けた横のつながりの強化を

 業界の高齢化による人手不足・後継者不足が深刻です。そこには業界特有の事情があります。生き物相手だからこその教える難しさもそうですし、雨の日も雪の日も関係なく休みなしで魚の世話をしなければいけないというハードさもあります。さらに経済的な面でも簡単に挑戦できる業界ではありません。魚を育てて出荷するまでにはある程度の年月がかかります。業界に入ったらすぐに儲かるわけではないので、自分の子どもにも「後を継いでほしい」とは言いづらいのが本音です。
 だからこそ、同業者と連携して協業できたら良いのではないかと思っています。一人でやっていると自分の仕事で精一杯、後継者を育てるところまで手が回りません。ですが同業者同士でつながりを持って協業ができれば、後継者の育成や業界の拡大など、一人では難しいことにも取り組めるのではないかと思います。そのためにも横のつながりはこれからも大切にしていきたいですね。

Q.1日のルーティンを教えてください

郷津実

7時
安曇野から白馬の養殖場へ向かう

午前
池の掃除(1時間)
すべての池の餌やり
出荷作業

午後
2回目の餌やり
出荷する魚を安曇野に持ち帰り、最終出荷作業


白馬に戻れる場合はもう一度餌やり

会社員ではないので決まった休憩時間などはありません。仕事が終わる時間もまちまちで、早ければ17時には上がりますが、遅いときは21時まで仕事をすることもあります。

一問一答

・休日の過ごし方は?

最近は子どもの野球の送り迎えや自宅の庭木の剪定が多いですね。飽き性で色々なことを趣味でやってきました。直近では自転車が好きでロードバイクとマウンテンバイクに乗っています。レッスンまで受けるほどで、一度凝るとかなり入り込むタイプです。
人と話すのも好きなので、居酒屋でお酒を飲みながらお店の人と話したりもします。そこから仕事につながったこともありました。食べて飲んで話して、っていう時間が良いですね。

・今の仕事をしていなかったら何をしている?

最初に勤めた焼肉屋をしていたでしょうね。東京に憧れがあるので、あの時東京進出ができていたらどうだっただろうと思います。新橋で飲みたいですね(笑)

・今欲しいもの/マイブームは?

お酒です

・子どもの頃の夢は?

料理人です。小さいころから料理番組を見るのが好きで、今でも家でつまみを作ったりしています。養殖を継いだ時は魚がさばけなかったので、常連のお店でさばき方を教わりました。もし自分が60歳とかになって誰かが養殖を継いでくれたら、自分のお店を開きたいなとも思います。カウンターだけの小さな居酒屋なんかも良いですね。

・疲れた時のリフレッシュ方法は?

お酒とネットショッピングです。ほしいものを見たりするだけでも気持ちがリフレッシュします。

・座右の銘は?

「やればできる」
最初は養殖なんてできないと思っていましたが、周りの人たちの協力も得ながらやってみたらできました。やらないうちはできませんが、やってみればできるものです。
一つできればまた次のこともできる。そうやって一つ一つできることが増えていきます。大切なのはどこでやる気スイッチを押すか、です。

郷津実

プロフィール

安曇野市在住。養殖をしていた父の後を継ぎ、まったくの未経験から養殖をはじめる。育てている信州サーモンは評価が高く、主に白馬村のホテルをはじめ、飲食店などに卸している。学生時代は柔道に精通し、現在も審判員をしている。

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